2015紀の国わかやま国体に向けて
道をつなぐ!
権現平トンネル

新道を印す軌跡
特集

道をつなぐ!
『権現平(ごんげんだいら)トンネル』

新道を記す軌跡

 来たる『2015紀の国わかやま国体大会』(2015年9月予定)開催に向けて、わかやまおもてなし宣言和歌山おもてなしトイレ大作戦など様々な取り組みが行われていますが、紀三井寺球場をはじめ施設整備や道路建設も県をあげて行われており各地で建設ラッシュが続いています。

 それら工事の中には、和歌山県西牟婁郡白浜町十九渕に建設中の白浜インターチェンジと白浜空港を結ぶ『県道白浜温泉線(都)白浜空港フラワーライン線』の建設工事も含まれています。この白浜空港フラワーライン線の構想は、平成8年(1996年)に計画が決定し、平成16年(2004年)から事業着手された工事で、総工費98億円、全長はおよそ4500メートルに及び、和歌山県南部におけるインフラ整備の大役を担っています。

 そして、この県道白浜温泉線(都)白浜空港フラワーライン線の中では唯一のトンネルであり、もっとも要となるのがこの『権現平トンネル(仮称)』です。

トンネル地図(航空写真)

このレポートは施工業者である三谷組社長 中谷博之 様のご厚意で実現しました。有田市に拠点を置く三谷組さんは同市内の宮崎町逢井トンネル(逢井隧道)を建設された実績を持つ県内指折りの建設業者です。この場を借りて御礼申し上げます。

トンネル地図

県道白浜温泉線(都)白浜空港フラワーライン線

国道42号線(左側)から権現平(右側)まで続く『富田高架橋(仮称)』

近畿自動車道紀勢線の白浜インターチェンジから国道42線に架かる『新富田橋(仮称)』、この新富田橋に連結する橋が写真の『富田高架橋(仮称)』です。

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権現平トンネルより眺める

和歌山県西牟婁郡白浜町才野権現平にあるこの現場。道路よりも7~8メートル高い東側抗口より眺める景色は格別です。長い新道の先には富田高架橋が見えます。その先は国道42号線で、さらに奥の麓には白浜ICが建設中です。来年の夏頃には舗装された綺麗な道路になっていることでしょう。

権現平トンネル(仮称)

権現平の名の通り山頂が広く平らな山で、大きな福祉施設のほかに金比羅神社や熊野神社があり、最深部の熊野神社の背後には権現平古墳群が鎮座しています。この山の中を通す計画です。

『トンネル』という名称が一般的ですが、正式には『隧道(ずいどう)』だそうです。第二次世界大戦後の漢字制限や用語の簡略化、外来語の流入などで今日のトンネルが一般的な呼び方になったそうだ。

写真は権現平トンネル東側の抗口(こうぐち)。赤茶色の機械は覆工(ふっこう)というトンネル壁面にコンクリートを施す作業をする巨大重機で、レールに沿って1区間およそ6メートルずつ作業を行います。全長384メートルもある権現平トンネルを舗装するには膨大な労力が掛かります。

命がけのトンネル工事

 前方に見えるのが防水作業とコンクリートを流す下地を敷設する重機。取材時は既に貫通していたので潮風が吹き込みかなり冷えたが、掘削工事中は粉塵で1メートル先も見えないことに加えて、地熱の影響で灼熱だったらしく、工夫(こうふ)らは酷烈な環境で作業を行ったそうだ。

 工夫は命がけと聞きますが、綺麗に舗装されておらず、安全に組み上げられていない広大な現場に入るとスケール感が全く異なり、けして誇張でないことがよく分かりました。

 特にトンネル工事は、切羽(きりは ※トンネル掘削作業)を行っている際に岩盤から水が吹き出る出水(しゅっすい)が非常に危険で、その水量は湖の底が抜ける規模というから恐ろしい。

(出水事故は、三船敏郎、石原裕次郎主演の黒部ダム建設の映画『黒部の太陽』の作中でリアルに再現されており、如何に恐ろしいことか知ることができます)

 中谷社長曰く、『普段、我々が目にする湧き水は数十年前のもの。』というから山中の埋水量が如何に膨大か想像に難しくない。山全体で吸収された水が山中の空洞に溜まり、池~湖サイズの水源となり、自然の恵みとなる反面、危険度は極めて高い。

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総延長384メートル

 緩やかにS字カーブしている権現平トンネル。このカーブには理由があって、侵入時にトンネルの出口が見えないことによって運転手に心理的不安を与えてスピードの出しすぎを抑制する効果を生んでいます。普段、何気に走っている道路にも目に見えない安全対策が施されているようです。

 写真の大型ダンプをみるとトンネルの大きさがお解り頂けると思う。乗用車なら優に4台は併走できる広さ。薄暗く長い距離だがこの広さは不安よりもワクワク感が勝ります。

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山は動く

 中谷社長曰く、『山は動く』。最初は崩れるようなイメージで聞き取った言葉でしたが、実際は本当に山が動くのです。

 砂場で山を作ってトンネルを通す遊びをしたことがあるなら必ず円錐に土を盛って真ん中を通すでしょう。これなら砂の質量が均一なので崩れにくく安定します。しかし実際の山は、地面から迫り上がって出来ているため場所によって質量はまちまち。しかも真ん中に通せる事など極めて希で左右どちらかに寄ります。こうなると山の圧力は不安定になり、トンネルという人工的な空洞の影響でグググ・・・と変形し、業界で言う山が動くことへ繋がります。これは前述の出水よりもさらに深刻で、この事態に対処するには最先端の土木技術がなければ防ぎきれないといいます。

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 このとてつもない山の質量を支えるには一斗缶ひとつでなんと数万円もする特殊な用材をふんだんに使って壁面の奥深くまで固める作業が行われています。写真左の四角い部材の中心には長さ30メートルにも及ぶ特殊な鉄柱が埋め込まれており、その周りが用材で固められています。もしも山が動いたときは圧力を支えている鉄柱が突き出て危険を察知できる仕組みになっているそうです。ただ、これは工事中のみの話で、完成すればあらゆる災害にも耐えうる安全な場所となるので心配はありません。

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 およそ半分の170メートル付近に差しかかると出口が見えてきます。トンネルの中心付近に立つと入口と出口が両方見えるよう作られています。ここまで歩くだけでもかなりの時間を要するこの距離を1日1~2メートルずつ掘り進んできたというから敬服します。

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 油圧ショベルのアームは極太で先端のブレーカーアタッチメントのサイズが尋常ではない大きさ。これは真上を掘るために使用されたそうです。運転席はまるで装甲車のよう。

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権現平トンネル西側抗口

 抗口は崩落を防ぐために円状に補強されている。

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 この先は別の業者が山を削って道路を作っています。そして、もう少し西側にある川にはまた別の業者が新しい橋を作り、その先の山を削り取っているのもまた別の業者です。大勢の人たちが力を合わせて一本の道をつなぎ、地図に新しい道を印します。

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